妻の病気は、明細胞卵巣がんという、進行の速いタイプのがんでした。
手術を1か月後に控えたある日、妻は血栓症をきっかけに軽い脳梗塞を起こし、
入院することになりました。その後遺症で、失語症も患うことになりました。
抗がん剤治療が始まり、医師からは「パクリタキセルを含む3種類の抗がん剤で、
3週間ほどで髪がすべて抜けます」と説明を受けていました。ですから、
実際に髪が抜け始めたときも、夫婦で「ああ、来たか」という感覚でした。
抜け始めてから、すべて抜け落ちるまで
説明を受けていたとはいえ、実際に経験すると、想像していたものとは違いました。
妻はもともと毛量の多い人でした。
抜けた髪と、まだ抜けきっていない髪が絡まって、頭皮の上でカチカチに
固まってしまうのです。「どうにかしてくれ」と、妻が泣きながら
訴えてきたことを、今でもよく覚えています。
神野司
時にはハサミで切ったりもしました。すべて抜け落ちるまで、
2週間ほどかかったと思います。毎日3時間ほど髪を解き、
床に落ちた髪を掃除する日々でした。毛を吸い取るための
ハンドクリーナーも購入しました。
髪が抜け落ちていく妻を見て、私は正直、可哀想で、代わってあげたいと
心底思いました。妻はケロッとした様子を見せていましたが、
本心がどうだったのか、私には分かりません。
聞くことができませんでした。
失語症を抱えながらの日々
髪のことだけでなく、この時期の私たち夫婦には、失語症という、
もう一つの大きな課題がありました。
妻は、自分の気持ちを言葉で伝えることが、しばらくの間できませんでした。
その期間は、3か月ほど続いたと思います。
今振り返って、一番後悔しているのは、この時期のことです。
気持ちをうまく伝えられない妻に対して、私は強くあたってしまうことが
ありました。可哀想なことをしたと、今も反省しています。
その状況を、もっと理解した上で接してあげればよかったと思っています。
幸い、介護保険を利用して、1年ほど言語訪問リハビリを受けることができ、
現在、妻の失語症は完治しています。
洗濯、調理、買い物、介護——できることを、精一杯
妻は、これまで私の身の回りの世話を、嫌な顔ひとつせずしてくれていました。
妻ががんと戦っている間、私にできることは、洗濯、調理、買い物、
そして介護でした。感謝の気持ちを込めて、できることを精一杯やろうと
決めていました。
ウィッグを一緒に選んだことも、髪を解き続けた2週間も、
その延長線上にあったことだったと、今は思っています。
同じ状況にいる方へ
ここまで、かなり具体的に、私たち夫婦の経験をお伝えしました。
がんの種類も、進行の度合いも、家族構成も、人によってまったく違います。
私たちの経験がそのまま当てはまるわけではないと思います。ただ、
「同じように大変な思いをしているのは、自分たちだけではない」
ということだけでも、誰かに伝わればと思い、この記事を書きました。
髪が抜けていく過程は、想像以上に大変です。もし今、同じ状況にいるなら、
一人で、あるいは夫婦だけで抱え込まず、使える制度や道具(ハンドクリーナー等)
に頼ることを、ためらわないでほしいと思います。
ウィッグの助成金制度については、こちらの記事もあわせてご覧ください。
大阪市の医療用ウィッグ購入費助成、実際に申請してみた話
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- 執筆者
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神野司(かみの つかさ)
妻のがん闘病を支える中で、大阪市の医療用ウィッグ助成制度を実際に利用。
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