配偶者ががんになったとき、職場に伝えるかどうかは、「がんという病名」ではなく「自分の仕事への影響」を基準に考えると、判断しやすくなります。通院の付き添い、急な休み、勤務時間の調整などが必要になりそうなら、まず直属の上司に相談する方法が考えられます。必ず上司に言わなければならない、という意味ではありません。仕事への影響がなく、プライバシーを守りたい場合は、職場全体に知らせる必要はありません。
この記事では、「誰に・いつ・何を・どこまで」伝えるかを、東京都の家族調査や国立がん研究センターなどの公的な情報をもとに整理します。あわせて、そのまま使える伝え方の例文と、配偶者の看病で仕事を休むときに確認したい制度、そして、経営者として妻の病気を「利用者や家族に伝える側」だった私自身の体験もお伝えします。
- この記事の情報源と確認日
- 東京都の「がん患者の就労等に関する実態調査」(平成30年度調査、平成31年3月公表)の家族調査、国立がん研究センター がん情報サービス「周りの人に病気のことを伝える」、厚生労働省の介護休業・介護休暇に関する公開情報と「治療と仕事の両立支援」の案内を確認(2026年9月20日)。末尾に一覧を載せています。
配偶者ががんになったら、職場に伝えるべき?
結論から言うと、「必ず伝えなければならない」という決まりはありません。伝えるかどうかは、自分の仕事にどんな影響が出そうかで決めます。次の表は、状況ごとの目安です。
| あなたの状況 | 伝える判断の目安 |
|---|---|
| 通院の付き添いで、休みや早退が増えそう | 直属の上司に、早めに相談する |
| 急な休みが発生する可能性がある | 上司に、事前に伝えておく(急な休みの連絡がしやすくなる) |
| 勤務時間や働き方を変えたい | 上司と、人事・総務などの担当部署に相談する |
| 仕事への影響が、ほとんどない | 無理に広く伝える必要はない |
| 配偶者の病名を、知られたくない | 「家族の治療の付き添い」など、必要な範囲だけ伝える(休みや勤務調整に必要な事情を、その説明で足りるか、勤務先に確認する) |
| 同僚にも伝えるべきか迷う | 必ずしも、全員に伝える必要はない(業務を引き継ぐ相手など、必要な人に絞る) |
| 会社の制度(休暇など)を使いたい | 人事・総務などの担当部署に確認する |
この表は、東京都の調査と国立がん研究センターの考え方をもとに、当サイトが整理した目安です。会社の規模や就業規則、職場の状況によって、必要な対応は変わります。個人情報やプライバシーへの配慮も、あわせて考えてください。
職場に伝えるかどうかは「仕事への影響」で考える
東京都が平成30年度に行った「がん患者の就労等に関する実態調査」(報告書は平成31年3月公表)には、がん患者の家族を対象にした調査があります。回答した家族は380人で、患者との関係は「配偶者」が73.4%でした。このうち、家族のがんが分かったときに企業・団体などの法人で働いていた203人について、職場への相談・報告の状況が示されています。
家族のがんを職場に伝えた人は、約6割
東京都の調査では、家族のがんについて職場に相談・報告した人は63.5%(203人中)でした。相談した129人のうち、88.4%が「所属長・上司」に、47.3%が「同僚」に相談しています。人事労務担当者に相談した人は7.8%でした。相談先として、多くの人が、直属の上司を選んでいることが分かります。
※この63.5%などの数字は、配偶者だけを対象にした数字ではなく、がん患者の家族全体を対象とした調査結果です。
| 家族のがんについて職場に相談・報告した人(129人)の相談先 | 割合 |
|---|---|
| 所属長・上司 | 88.4% |
| 同僚 | 47.3% |
| 人事労務担当者 | 7.8% |
出典:東京都「がん患者の就労等に関する実態調査」(平成30年度調査)家族調査。複数回答。調査対象は、がん患者の家族全体(配偶者に限らない)で、調査時期がやや古い点に注意が必要です。
伝えなかった人の理由は「相談・報告する必要がなかった」が最多
職場に相談・報告しなかった65人に理由を聞いたところ、最も多かったのは「介護と仕事の両立に問題はなく、相談・報告する必要がなかったため」(66.2%)でした。次いで、「家族が病気であることを皆に知られたくなかったため」が23.1%、「他に相談できる相手がおり、職場内で相談する必要がなかったため」が20.0%、「どのように相談・報告すればよいか分からなかったため」が10.8%でした(複数回答、3つまで)。
この調査からも、職場に伝えるかどうかを考えるときに、仕事への影響や、プライバシーへの考え方など、それぞれの状況に応じて判断している人が多いことが分かります。当サイトでは、病名を基準にするより、仕事への影響を基準にするほうが、判断しやすいと考えています。なお、職場に相談した人のうち、プライバシーが守られたと答えた人は67.4%でした(「いいえ」は3.1%、「わからない」は27.1%)。
職場に伝えるなら、誰に・いつ・何を・どこまで?
伝えると決めたら、次は、誰に、いつ、何を、どこまで伝えるかです。国立がん研究センターは、がん患者本人が周囲に病気を伝えるときの考え方として、診断直後に急いで伝える必要はなく、「治療方針や治療のスケジュールなどが決まり、落ち着いて話ができるようになってから」でも遅くない、としています。家族の場合も、同じ考え方が参考になると、当サイトでは考えています。
誰に伝えるか:まず直属の上司
相談先として、直属の上司を選ぶ人が多いようです。東京都の調査でも、職場に相談した人の約9割が、所属長・上司に相談していました。上司は、あなたの業務や休みの調整について、相談しやすい立場だからです。人事・総務などの担当部署には、休暇や勤務時間の変更など、制度を使いたい場面で相談します。
同僚には、あなたが休んだときに業務を代わってもらう可能性がある人に絞って伝えます。全員に伝える必要はありません。
いつ伝えるか:休みや早退が必要になりそうなとき
診断の直後に、急いで伝えなくても構いません。治療の方針や通院のスケジュールが見えてきて、「休み・早退・勤務時間の変更がどの程度必要か」が分かった段階で、早めに相談すると、職場も対応しやすくなります。国立がん研究センターは、患者本人向けの案内で、サポートが必要な場合は、治療が始まる前にどんなことをしてもらうと助かるかを伝えておくと安心、としています。
何を、どこまで伝えるか:必要な範囲だけ
全部を伝える必要はありません。国立がん研究センターは、相手によって、伝える内容や範囲を変えてよいとしています。目安は、次の3つです。
- 最低限伝えること:家族の治療の付き添いなどで、休みや早退をお願いする可能性があること
- 必要に応じて伝えること:いつ頃・どの程度の頻度で休むか、急な休みの連絡方法、業務の調整案
- 必要以上に伝えなくてよいこと:病名や、病状の詳しい内容など。病名を伝えたくない場合は、休みや勤務調整に必要な範囲で事情を説明できるか、勤務先に確認しましょう
そのまま使える伝え方の例文
「伝える」と決めても、言い方に迷う方は多いと思います。次の例文は、当サイトが作成した参考例です。ご自身の状況に合わせて、言い換えてください。
「妻ががんになった」と上司に伝える場合
病名まで伝えても差し支えない職場で、上司との信頼関係がある場合の例です。状況を具体的に添えると、上司も対応を考えやすくなります。
- 例文(上司へ)
- 「妻が現在、がんの治療を受けています。今後、通院の付き添いなどで、急にお休みをお願いする可能性があります。業務への影響はできるだけ抑えるつもりですが、必要になったときは、ご相談させてください。」
病名は伝えず、「家族の治療の付き添い」と伝える場合
病名は、職場に知られたくないという方も多いと思います。その場合は、休みが必要になる可能性という、必要な範囲だけを伝える形にできます。
- 例文(上司へ)
- 「家族の治療の付き添いが必要になり、今後、通院などでお休みをお願いする可能性があります。詳しいことはお伝えできない部分もありますが、業務に支障が出ないよう調整します。」
勤務時間や働き方の調整をお願いする場合
休みではなく、働き方そのものを調整したい場合の例です。制度の有無は会社ごとに違うため、まず「教えてもらう」形で切り出すと、話しやすくなります。
- 例文(上司・人事へ)
- 「家族の治療のため、当面、月に数回の通院に付き添う必要があります。時間単位の休暇や、勤務時間の調整が可能か、制度を教えていただけないでしょうか。」
話す前に、「いつ頃、どのくらいの頻度で休みが必要か」「その間の業務をどうするか」の案を、簡単に用意しておくと、上司も判断しやすくなります。
面と向かって言いにくい場合は、メールで伝える
直接話すのが難しいときは、メールで先に伝えて、あとで時間をもらう方法もあります。次は、その一例です。
- 例文(メール)
- 「お忙しいところ恐れ入ります。家族の治療の付き添いのことで、業務の調整についてご相談したく、お時間をいただけないでしょうか。今後、通院でお休みをいただく可能性があります。」
配偶者のがんで仕事を休むときに確認したい制度
配偶者の看病や付き添いで仕事を休むときに、まず確認したいのは、有給休暇と、勤務先の独自の休暇制度、そして法律で定められた介護休暇・介護休業です。「治療と仕事の両立支援」と、「家族を支えるための休暇・勤務調整」は、対象も内容も別のものです。
まず確認したいもの
配偶者の看病で休むとき、いちばん手軽なのは、すでにある制度を使うことです。まず、次の4つを確認しておきましょう。
- 年次有給休暇:時間単位・半日単位で取れるか、勤務先の就業規則を確認します
- 会社独自の休暇制度:看護休暇、特別休暇、リフレッシュ休暇など。制度の有無と条件は、会社ごとに異なります
- 勤務時間の調整:時差出勤、時短勤務、在宅勤務などが使えるか
- 相談窓口:人事・総務、産業医、社内の相談窓口
介護休暇・介護休業が使えるケース
介護休暇・介護休業は、配偶者ががんになっただけで、自動的に利用できる制度ではありません。対象家族が、負傷・疾病などにより「2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」にあることなど、法律上の要件があります。厚生労働省は、要介護認定を受けていることは、必ずしも必要ではないとしています。
要件を満たす場合、介護休暇は、対象家族が1人なら年5日、2人以上なら年10日まで取得できます(配偶者を含む家族が対象)。介護休暇でいう「世話」には、通院の付き添いも含まれます。時間単位でも取得できますが、業務の性質上、困難な業務は、労使協定で対象外とされる場合があります。介護休業は、通算93日まで、3回に分けて取得できます。
2025年4月からは、労使協定によって「継続雇用6か月未満」の労働者を介護休暇の対象外にできる仕組みが廃止されました。ただし、これは、要件を満たすかどうかの判断とは別の話です。
配偶者のがんの通院の付き添いで、これらの制度が使えるかどうかは、治療の内容や、日常生活で必要な介助の程度などによって変わります。使えるかどうかは、勤務先の人事・総務、または都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に確認してください。介護休業給付金などの詳しい条件は、介護休業給付金とは|配偶者ががんになったときの制度・申請・会社への相談方法で整理しています。
「治療と仕事の両立支援」との違い
2026年4月1日から、治療を受けながら働く労働者への「治療と仕事の両立支援」が、事業主の努力義務になりました。「治療と仕事の両立支援」は、単一の休暇制度ではなく、事業主による環境整備や相談への対応、必要な就業上の措置などを含む、支援の枠組みです。厚生労働省の案内では、この支援の対象は「治療を受けている労働者本人」です。家族ががんになった労働者が、看病のために休むことを、直接の対象にした制度ではありません。
また、努力義務は、「事業主が体制を整えるよう努める」というもので、家族の看病で必ず休暇を与えなければならない、という意味ではありません。配偶者本人が働いている場合は、配偶者自身が、この両立支援を使える可能性があります。そのときは、配偶者の主治医や、がん相談支援センターに相談できます。
相談できる窓口:がん相談支援センターなど
職場への伝え方や、仕事との両立に迷ったら、専門の窓口に相談できます。国立がん研究センターは、治療と仕事の両立など、就労に関することは、全国のがん診療連携拠点病院などにある「がん相談支援センター」で相談でき、がんについて職場にどう伝えればよいかも相談できるとしています。患者さんだけでなく、ご家族も利用できます。
利用の流れは、がん相談支援センターとは|治療中に頼れる無料相談窓口の探し方と使い方で紹介しています。勤務先の産業医や人事・総務の相談窓口も、あわせて確認してみてください。
私の場合は「経営者」だった|職場ではなく、利用者に伝える側
ここからは、私自身の体験です。ここまで書いてきたのは、会社員など、「職場に伝える側」の話でした。私は、訪問介護事業所を13年間経営していました。妻の病気を機に、事業所を閉鎖するという決断をしましたが、経営者という立場では、「会社に伝える」のではなく、「利用者やご家族に、事業を続けられない理由を伝える」ことになりました。
事業所は、もともと人手に余裕がない中で運営していました。訪問介護は、人員基準があり、1人欠けても、基準を満たせなくなれば、事業所を運営できません。妻の闘病を支えるため、私が仕事を続けられなくなったことで、その人員基準を維持できなくなり、事業を続けられないと判断しました。
妻の病気を理由に事業所を閉じるという決断は、私の場合、看病に専念するための選択でした(この選択については、治療中の通院付き添いと家事|専念するという選択でも書いています)。すべての方に当てはまる正解ではありません。仕事を続けながら支える方法は、家庭ごとに違います。
なぜ、理由を正直に伝えたのか
訪問介護は、利用者様の生活に直接関わるサービスです。事業所を閉じるということは、利用者様に、別の事業所を探していただく必要があるということです。理由を曖昧にしたまま引き継ぎを進めるのは、無責任だと考え、利用者様やそのご家族には、妻の病気のことを正直にお伝えしました。
利用者・ご家族への説明と、引き継ぎで実際にしたこと
理由をお伝えしたことで、利用者様やご家族には、状況を理解していただきやすかったと感じています。引き継ぎ先の事業所選びや、必要な情報の共有についても、事情を分かっていただいた上で、落ち着いて進められました。
すべての場面で通用する方法ではありませんが、「相手の生活に関わる責任がある立場」であるほど、理由を曖昧にしないことが、信頼を保つことにつながるというのが、私自身の経験からの実感です。なお、どこまで伝えるかは、人によって違ってよいと思います。病名や病状の詳しい内容まで、話す必要はありません。
よくある質問
配偶者ががんになった人からよく聞かれる疑問に、短く答えます。個別の判断は、勤務先の就業規則や、人事・総務、都道府県労働局にご確認ください。
配偶者ががんになったことを、会社に言う必要はありますか?
職場全体に必ず伝えなければならない、というわけではありません。休みや早退、勤務時間の調整など、仕事への影響が見込まれる場合に、必要な範囲で、上司や担当部署に相談する方法があります。
妻ががんになった場合、夫が介護休業を取れますか?
妻が「2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態」など、法律上の要件を満たせば、対象になる可能性があります。ただし、がんと診断されたことだけで対象になるわけではなく、治療や日常生活の状況で変わります。勤務先の人事・総務に確認してください。
がんの通院の付き添いで、介護休暇を使えますか?
対象家族が要介護状態にあるなどの要件を満たす場合、介護休暇でいう「世話」には、通院の付き添いも含まれます。取得できる日数は、対象家族が1人なら年5日、2人以上なら年10日で、時間単位でも取得できます。
配偶者のがんを、同僚全員に伝える必要はありますか?
必ずしも、全員に伝える必要はありません。あなたが休んだときに業務を代わってもらう可能性がある人など、業務上必要な範囲に絞って伝える方法があります。
病名を伝えずに、休みをお願いすることはできますか?
病名や病状の詳しい内容は、必要以上に伝える必要はありません。ただし、休暇制度を使うときに、会社が事情の確認を求める場合もあります。休みや勤務調整に必要な範囲で説明できるか、事前に勤務先に確認しておくと安心です。
まとめ
配偶者のがんを職場に伝えるかどうかは、病名ではなく、自分の仕事への影響で決めると、迷いにくくなります。伝えるなら、まず直属の上司に、必要な範囲だけを、休みが必要になりそうなときに伝えます。会社員の場合、休むときは、有給休暇や会社の制度、介護休暇・介護休業が使えるかを、人事・総務に確認します。
2026年に努力義務になった「治療と仕事の両立支援」は、治療を受けている本人のための制度で、家族の看病を直接の対象にするものではない、という点も、知っておくとよいでしょう。迷ったときは、がん相談支援センターなどに相談し、一人で抱え込まないようにしてください。
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- 執筆者
-
神野司(かみの つかさ)
妻のがん闘病を支える中で、大阪市の医療用ウィッグ助成制度を実際に利用。
この記事の制度・調査の情報は、公的機関の公開情報をもとに、一般の方に分かりやすく整理したものです。社会保険労務士・医師等による監修は受けていません。会社の休暇制度や、ご自身が制度を使えるかどうかは、勤務先の人事・総務、または都道府県労働局にご確認ください。
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